ハートストライク

後輩の真美を知り合いのタクシーに押し込めて
聡子は見覚えのある車に近寄った

「やっぱり、あの人の車だ。」
ＮＹに行くと言って自分の前から去って行ったはずの秋の日の別れの彼
聡子がしばらく車を眺めていると　人の気配で後ろを振り返った

「あっ・・・！」
ばつの悪そうな声を男は出した

聡子は酔いも手伝ってか　なぜか強引になっていた
「お帰りなさい！アメリカはどうでした？」

「あなた！忘れ物よ！」
車の横の茶色のビルから　華やかな女性が現れた
当たり前のように　男に寄り添う女性の”しな”がかった姿に見覚えがあった

男と二人でデートを重ねていた　ジャズバーの歌手の女性だった
夏の気配のネオンの隙間に　３人が立ち尽くす形になった

風に揺れる銀座の柳の無数の枝が・・・
聡子には嘘をつかれていた男の舌に見えていた
現実を受け止める・・・ってこんな感じ？

誰に聴くとも無い言葉が頭を駆け巡っていた
秋の別れの余韻はいつの間にか消えていた
柳の青葉が目に焼きついた